(阿智村)満蒙開拓平和記念館  

   平成27年度 長野県建築士事務所協会主催「平成27年度建築作品賞」にて『最優秀賞』

 

 

森の底から見えるひとすじの希望の光明・・・・

             今、伝えなければならない平和への想い。

記念館の設計を担って

 新井建築工房+設計同人NEXT 代表 新井優

 

 先の大戦中、中国東北部であった悲しい歴史を風化させること無く、次世代に語り継いでいく全国唯一の満蒙開拓に特化した記念館。

 賛同者の貴重な浄財でつくる記念館は、出来るだけ質素に、出来るだけ力強くメーセージを伝える館として計画した。外観は大陸の建築のプロポーションと伊那谷の養蚕農家を感じられる形。特に大陸の建築に必ずある煉瓦の煙突とポプラ並木は記念館のシンボルです。

 天に向かって林立する8対の地元の杉丸太で組みあげた架構に越屋根からの柔らかい光が差し込みます。左右の登り梁が出会う部分を合掌と言います。光の中でまさしく木の命の永遠に想いを託して手を合わせる。この光の回廊を象徴とする館は、平和を祈る木造打放しの聖堂として記憶に残る空間づくりを目指した。

 この館は、近代史の一つの事実をきちんと学ぶ事に加え、悲しい歴史を平和への希望の力に替えていく一人一人の意識改革も迫っている。個人として間違いの無い将来をきちんと判断できる能力を高めなさいと満蒙開拓平和記念館はこれからも語って行く。

 《構造、意匠、機能、地球環境維持、ユニバーサルデザイン》

下伊那の杉、檜130m3で組み上げた架構は、そのまま潔く構造即意匠の室内空間づくりとした大型木造建築。館内を巡ることにより自分も満蒙開拓団になった体験型の動線展示を考えた。満蒙開拓の史実を分かりやすくゾーニングし、その中央を光の回廊が貫く。光の回廊はヨーロッパの聖堂に習って東西に向きを合わせてある。博物館としては禁断の自然光と重力差換気、薪を燃やすペチカと薪ストーブの炎が見える館は、90歳前後の帰国者達を癒やしている。床は高齢者に優しい地元唐松の木土間とした。

《防災、安全、維持管理》

深い庇を出した単純な切り妻の瓦屋根。それだけで高温多雨の日本の木造建築の維持管理への配慮の基本。天井兼野地板は防火を考慮して地元でつくる木毛セメント板とし、屋根断熱+基礎断熱+外壁外断熱工法として基本的な性能向上を図った。